この羽織もそうですが、しつけ糸を取っていない着物が自宅に何点かあります。しつけはすぐに取ったほうが良いという意見もありますが、おいそれと気楽な気持ちで取ることが私には出来ないんですよ。



というのも昔、裏方として働いていた芸人さんの世界では、

「しつけ糸は粋筋(花柳界、水商売)の異性に切ってもらえ」

という験担ぎがありまして。

粋筋でなくても意中の異性でも良いんです。あるいはその着物を買ってくれた方。大事なご贔屓さん。とにかく自分でしつけ糸を切ってはいけなかったんです。着物のしつけを取ること自体、儀式でしたから。タイミングが合わず取ってほしい相手に会えない時は、しつけをつけたまま何度も舞台に上がっていた芸人さんもいらっしゃいました。

楽屋である芸人さんから「君、悪いけど、この着物のしつけ外してくれへんか」と頼まれたことがあるんですが、びっくりして「本当にいいんですか?私で」と念押ししました。その方は誰でも良かったみたいです(笑)

ちなみに着物を着用した上で、しつけ糸をはずすんです。最初に大事な人にプチッと一箇所だけ糸を切ってもらい、残りはお弟子さんやスタッフがはずします。

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