職場に新しく入ってきた方々に仕事をお教えしているのだが、一回で覚えてくれる人は少ない。同じことを何度も訊いてこられる。おもわず「前にも言ったよね?」「これで3回目よ」「何度繰り返したら覚えてくれるの」と言いたくなるが、口に出すのをグッとこらえている。なぜなら「前にも言った」という台詞は、お互いに全く益がない余計なひとことだと思うから。


「前にも言ったよね?」


言われたほうはただでさえ新しい業務や環境や人間関係に慣れなくてストレスを抱えているはずで、このひとことでさらに追い討ちをかけられるように思う。


また言うほうも、これを言ったところでもう一度繰り返して相手に教えることには変わりがないのだから、このひとことは余計な嫌味でしかない。要件だけスッと教えてあげたら済むこと。


ちなみに私が初めて着付けをマンツーマンで教わった先生は、ベテランの威厳のあるきっちりした先生だったが、手順を覚えられなくて何度も同じことを質問する私に対して、毎回まるで初めて訊かれたような素振りで、それはもう丁寧に気持ちよく忍耐強く繰り返し教えてくださった。「前にも言ったわよね」などという不毛な言葉はいっさいおっしゃらなかった。


その先生から卒業した後、インターネットや本を見て他の帯結びのやり方をあれこれ試してみたこともあったが、結局その先生のやり方に戻った。自然に手が先生のやり方で動くのです。